M&Aは正確な情報に基づく直感も重視!第一印象で信頼関係を醸成し、投資基準を明確に
【M&A|第3回】
計画的、段階的、網羅的に必要な情報を確認する、分析する
買収対象の企業が定まり、アドバイザーの選定が終わると、具体的に検討を進めるフェーズに入ります。財務情報、人事情報、事業計画など、内部の機密情報に触れる機会になるため、守秘義務契約を締結してから作業スタートです。
当初開示される資料は、決算書などの財務関連資料が主となります。
但し、買収側からすると、検討を進めるにはさまざまな情報が必要で、それらを分析し、その結果をベースに投資か撤退かを判断しなければなりません。そのため、手元にどれだけの情報を持てるかは、極めて重要になります。
ここが、アドバイザーの腕の見せどころ!
アドバイザーがどれだけ有意義な資料や情報を収集できるかで、アドバイザーの力量、本気度、相手に対する交渉力が分かります。
ファーストインプレッションを大切に
資料を一通り確認し、双方前向きに進めていく意向を共有した後、両社の顔合わせが行われます。譲渡側、買収側、どちらもキーマンが出席するのが一般的で、特に中小・中堅企業のM&Aでは、社長が出席するケースがほとんどです。
面談は2時間程度、会社設立の思い出から経営理念、成功事例、失敗事例など、虚心坦懐に自分のことを相手に伝え、相手のことを知る機会にしましょう。
よって、面談は条件交渉の場ではありません。
尚、面談のファシリテートはアドバイザーが行うのですが、面談の成否はファシリテート次第と言って過言ではありません。
初対面で、時間の都合上突っ込んだ議論はできないため、その時に感じた印象がその後の交渉に影響を及ぼすことになります。どちらか片方ばかりが喋り過ぎないように、話が脱線し過ぎないように、アドバイザーは上手に会話をコントロールするスキルが求められます。
お互いに好印象を持つこと、持たせることが何より重要です。
それぞれが聞きたいこと、確認したいこと、考えていることとは何か
これまで多数の両社面談に同席した経験から、譲渡側が聞きたいことをまとめると以下となります。
■ 譲渡側が聞きたいこと
- 現在の取引先との関係は維持してくれるか?
- なぜ、自分の会社、または事業を買いたいのか?
- 現在の雇用条件や福利厚生の維持を確約してくれるか?
その他にも、社名は残してくれるか、買収後の経営方針を教えてほしいなどがあります。譲渡するにあたり、これまでの職場環境の維持、将来の成長、発展に向けた考え方や具体的な施策を確認したい、という意図の質問が多い印象です。
一方、買収側が聞きたいことをまとめると以下となります。
■ 買収側が聞きたいこと
- 二番手、三番手は育っているか?
- なぜ、会社、または事業を売りたいのか?
- 社長自身が唯一無二のノウハウになっていないか?
その他にも、組織風土は自社と合うか、収益の源泉は何か、簿外債務や含み損は無いかなどがあります。円滑な引き継ぎの後、将来的に成長、発展が見込めるかどうかを確認したい、という意図の質問が多い印象です。
誠実な姿勢、受け答え、表情にて相手に対して安心感を与えながら、知りたいことをどれだけ引き出せるか。言葉を変えて複数回確認したり、アドバイザーを通じて質問してもらったりと、事前の準備、アドバイザーとの擦り合わせは必須です。
理念、価値観、生き様などを共有しながら、M&Aを進めていく雰囲気を醸成していきましょう。
買収監査でリスクを洗い出し、許容できるか否かを判断する
お互いに好印象を持ち、クロージングに向けて作業を進めることで合意ができたタイミングで、大枠の条件、今後のスケジュールなどが記載された「基本合意書」を締結します。
その後の条件交渉や作業などは、原則、基本合意書に記載された内容をもとに進めていくことになります。
基本合意書が締結された後、買収側はクロージング前の最終確認である買収監査に入ります。
買収監査はビジネス、税務、財務、法務、労務に関するチェックのほかに、環境、人事、システム、知的財産に関するチェックも状況に応じて行うなど、より広範且つ詳細にわたり実施します。
■ 買収監査のポイント
- リスク要因を発見する
- シナジー効果を試算する
- 追加投資の要否を判断する
- 自社との統合可否を検証する など
買収側は、多少の負担は覚悟の上で専門家に依頼し、漏れなく、正確に、精緻に監査し、検証を進めましょう。過去の実績をもとに未来をどのように作っていくか、買収監査を通じてイメージを膨らませることができるかどうかがポイントです。
■ 研修のご相談は、ビズハウスへ
投資基準と撤退基準を表裏一体で考える
買収側が望む条件、環境、スペックがすべて完璧に整った案件に出会う機会はありません。買収監査を通じて顕在化したリスクと、一緒になることで得られるリターンを天秤にかけて、投資か撤退かを判断しなければなりません。
各企業、各事業はそれぞれ独自の「力」を持っており、買収監査を通じて定性、定量の両面で検証してきました。これら「力」の中で、何を評価して判断するのか、その基準を考えなければなりません。基準が無ければ、判断にブレが生じてしまいます。
■ 企業、組織の力を評価する
- 収益力
- 資産力
- 顧客力
- 技術力
- 商品力
- 人材力 など
規模が欲しい、顧客網が欲しい、技術が欲しい、人が欲しいなど、評価の優先順位は各社で異なり正解はありません。
ステークホルダーからの批判にも耐えられる、第三者に対する説得力を持った基準を設定できれば、クロージングに向けた社内の準備は完了です。