投資判断にファイナンスの知見を活用!キャッシュフロー、割引率の根拠を明確に
【ファイナンス|第3回】
キャッシュフローに時間の概念を取り入れて、現在価値で経済性を評価する
ファイナンスを理解するには、キャッシュフローに時間の概念を取り入れて考えなければなりません。時間には価値がある(時間は価値を生む)ことを、理解することからスタートです。
- 現在の100万円
- 5年後の100万円
同じ100万円でも、その価値は異なります。なぜなら、時間は価値を増減させる効果をもたらすからです。
例えば、手元にある100万円を銀行の定期預金に預けたとします。
5年間、5%の金利で複利運用した場合、5年後には128万円になっています。5年の時を経て、当初の100万円が28万円のお金を生んだ(時間が価値を増加させた)と言えるでしょう。
上記ケースの場合、ファイナンスの世界では現在の100万円と5年後の100万円は同じ価値ではありません。現在の100万円と5年後の128万円が同じ価値である、と評価します。
■ 複利の計算式
Vt=V0×(1+r)t乗
- t:期間
- 0:現在
- r:金利
また、5年後の128万円は現在の100万円と同じ価値である、と言い換えることもできます。
将来の価値を現在の価値に修正するという考え方で、ファイナンス分野における現在価値修正という作業になります。
■ 現在価値の計算式
V0=Vt /(1+r)t乗
- r:割引率
大規模投資の判断は、ファイナンスナレッジを取り入れる
大規模な設備投資、新規事業開発、M&Aなどでは、ファイナンスの知見を活用して検討、判断するのが一般的です。特に、長期間になる取り組みの場合はキャッシュフローに重点を置くため、ファイナンスの知見は必須と言えるでしょう。
前述の現在価値修正は、投資の判断に活用することができます。初期投資額と現在価値合計額を比較して、どちらが大きいかで結論を導き出します。
■ 投資の判断基準
- 投資する判断 :初期投資額 < 現在価値合計額
- 投資しない判断 :初期投資額 > 現在価値合計額
初期投資額とは、何がしかに取り組む際のスタート時点での出費合計額を表します。キャッシュフローの観点で見ると、初期投資は出費であるためマイナスとして計上します。
一方の現在価値合計額とは、今後獲得する(獲得を予定している)毎年の入金額を現在価値修正した後の合計額を表します。こちらは実際の入金であるため、プラスとして計上します。
実際の業務においては、初期投資額と現在価値合計額の差額はプラスであるか(どれだけプラスであるか)、他とのシナジー効果をどれほど期待できるかを考慮して、投資の要否を判断することになります。(差額がマイナスの場合は投資しない判断に)。
尚、初期投資額も考慮した現在価値修正のことを、正味現在価値(NPV:NET PRESENT VALUE)と言います。
■ NPVのポイント
- キャッシュフローの根拠
- 割引率の客観性
キャッシュフローの根拠とは、将来得られると想定した入金額の実現可能性を示すエビデンスや考え方、という意味です。
毎年の入金額から出金額を控除した残金は手元に残り、投資に対するリターンとして認識されます。残金は大きければ大きいほど、現在価値合計額は大きくなる関係性にあります。
それ故に、取り組み可の判断を仰ぐべく甘い見積もりをしてしまうと、後で手痛いしっぺ返しを受けることになります。一方で、厳しすぎる見積もりをしてしまうと、前に進められるものも進めることができなくなってしまいます。
また、現在価値修正で使用する割引率は、低いほど現在価値合計額は大きくなり、高いほど現在価値合計額は小さくなります。
あえて低い割引率(または、あえて高い割引率)を用いて投資判断に影響を及ぼすことができてしまうため、結論ありきの割引率にならないよう注意しなければなりません。
ファイナンスを活用するビジネスパーソンには、キャッシュフローを正確に予測するスキル、そして、客観的な割引率を計算するスキルが求められています。
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割引率によって投資の判断はブレる!根拠を明確に、納得が得られる割引率に
経営者やリーダーは、限られた経営資源を用いて、複数のプロジェクトの中から最適な選択をしなければなりません。定性的な分析のほか、ファイナンスによる定量的な分析など、複数のアプローチで最終的な判断を行うことになります。
前述の通り、ファイナンスを活用する際は、キャッシュフローの根拠と割引率の客観性が求められます。特に割引率のわずかな違いは、異なる判断を導き出してしまいます。
■ プロジェクトA
キャッシュフロー
- 初期投資額 ▲300
- 1年目 100
- 2年目 100
- 3年目 100
- 4年目 100
- 5年目 100
NPV
- 割引率5%の場合 133
- 割引率15%の場合 35
■ プロジェクトB
キャッシュフロー
- 初期投資額 ▲300
- 1年目 150
- 2年目 150
- 3年目 100
- 4年目 50
- 5年目 50
NPV
- 割引率5%の場合 146
- 割引率15%の場合 63
■ プロジェクトC
キャッシュフロー
- 初期投資額 ▲300
- 1年目 200
- 2年目 150
- 3年目 120
NPV
- 割引率5%の場合 130
- 割引率15%の場合 66
初期投資額が同額(▲300)の3つのプロジェクトについて、割引率によってNPVが異なる値になることが分かります。割引率5%の場合には、プロジェクトBの選択が最適に。割引率15%の場合には、プロジェクトCを選択するのが最適となります。
将来得られるキャッシュフローの客観性を担保できたとしても、割引率によって判断がブレてしまうことに注意しなければなりません。
尚、自社にとって最適な割引率は、WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)という「借入にかかるコスト」と「株式調達にかかるコスト」を加重平均したものを用いるのが一般的です。
【アーカイブ|ファイナンス】
- 1 企業経営、組織運営にファイナンスを取り入れる
- 2 資産運用にファイナンスを活用!数字の根拠と正確性を明確に
- 4 資金調達コストは、負債コストと株主資本コストで構成される
- 5 WACCを用いて資金調達の最適化、将来に資する判断を