企業の資金調達コストは、負債コストと株主資本コストで構成される
【ファイナンス|第4回】
資金調達の優先順位と判断基準とは!必要なときに、必要な金額を調達できるように
経営者や資金調達の担当者は、必要なタイミングに、必要な金額をより低コストで調達したいと考えるのが一般的です。特に金融機関とのコミュニケーションは欠かさずに行わなければなりません。
業績の見通し、設備投資の予定、現在の経営課題など、取引金融機関には包み隠さず共有することで、いざという時にサポートを得られやすい関係を日頃から構築しておくと安心です。
一方で、最近は資金の調達先と調達手段が多様化し、どこからどのように調達するかを選択できる環境になりました。選択肢の広がりは企業側にとって有益であり、より低コストで調達できるようあらゆる選択肢を比較して、最終的に判断することになります。
最適な調達先、調達手段はどのような組み合わせになるのかは、その都度考えなければなりません。考えるべき項目は多数あり、財務担当者の腕の見せどころと言えるでしょう。
■ 資金調達先
- 投資家
- 金融機関(銀行、信用金庫など)
- 教育機関(大学など)
- ベンチャーキャピタル
- ファンド など
■ 資金調達手段
- 増資
- 融資
- 社債
- 助成金 など
■ 資金調達の判断
- 金額 どのくらいの資金量が必要か?
- 期間 どのくらいの期間で返済するか?
- コスト どのくらいの金利がかかるか?
- 難易度 相談、申し込み、手続き、入金までのハードルは?
経営者にとっては、必要な資金は出すが経営には口を出さない、という相手からの調達が理想ではないでしょうか。
経営の主導権は握られないように、そして、資金調達先からの期待に応える経営を継続できるように。資金調達先との円満な関係は、経営の安定と中長期的な展望を拓く礎になります。
目的、立場、リスクに応じて、株主や金融機関が要求するリターンはさまざま
企業に資金を提供する役割を主に担っているのは、主に株主と金融機関です。株主は出資という手段で、金融機関は融資という手段で資金提供を行っています。
融資を行う側を債権者、融資を受ける側を債務者と言い、金融機関は債権者、企業は債務者という関係性になります。
株主や金融機関は、提供した資金が効率的に運用されて利益を創り出しているかが、一番気になるところです。企業経営が失敗すれば、提供した資金は返還されない、還元されないことになり、相応のリスクを背負わなければなりません。
よって、株主や金融機関は、資金提供に際してリスクを背負う分、それなりのリターンが欲しいと考えます。
■ 株主の立場
- 株価を高めてほしい!
- 利益を還元してほしい!
株主が要求するリターンのことを「rE」と言います。
株主が要求する(獲得する)rEは、配当金やキャピタルゲインを表します。
■ 債権者の立場
- 遅滞なく返済してほしい!
- 返済が滞ってしまうリスクを保全したい!
債権者が要求するリターンのことを「rD」と言います。
債権者が要求する(獲得する)rDは、金利を表します。
上記の言い方を変えれば、企業側は株主や金融機関が要求するリターンに応えなければ、資金提供を受けることはできません。
調達した資金は周りからの期待と理解して、期待以上のリターンで応えることが経営者には求められています。
■ 研修のご相談は、ビズハウスへ
資金調達コストの内訳は?!より低コストで調達する組み合わせを考える
企業全体の資金調達コストは、負債コストと株主資本コストの2つの要素で構成されています。
負債コストとは、借入金にて資金調達する際に支払うコスト(一年間で負担した金利の平均)のことをいいます。主に金融機関に対して元利均等、元本均等、元本一括などの方法で返済する際に支払う金利を、負債コストとして理解します。
■ 負債コストの算出
負債コスト(一年間の平均金利)=支払利息/{(期首有利子負債合計/期末有利子負債合計)/2}
一方の株主資本コストとは、出資を通じて資金調達する際に支払うコストのことをいいます。株主に対して、配当金の支払いや株価上昇で応える際に負担する分を、株主資本コストとして理解します。
株主一人ひとりにリターンの要求度合いを確認していくことが一番の対応ではありますが、大企業の株主は数万人に及ぶため、現実的ではありません。そのため、さまざまな前提を踏まえて株主がどの程度のリターンを求めているかを導き出す計算モデルがあります。
ノーベル経済学賞を受賞したウィリアム・フォーサイス・シャープが提唱した資本資産価格モデル(CAPM:キャピタルアセットプライシングモデル)で、株主資本コストを算出する際に、多くの企業で採用されています。
■ 株主資本コストの算出
株主資本コスト(CAPM)=リスクフリーレート×(β×マーケットリスクプレミアム)
- リスクフリーレート:無リスク投資のリターン率(日本国債10年利回りを使います)
- β:株式市場全体の株価の動きと自社株の動きの関係性、感応度を数値化したもの
- マーケットリスクプレミアム:会社ごとに、リスクフリーレートに比べてどれだけ高い利回りを期待するかを数値化したもの
各企業のリスク状況に応じて計算することができるため、柔軟な運用ができるのもCAPMの特徴の一つです。
少々難しい内容ではありますが、ファイナンスを学ぶ上では必ず理解しなけれならない重要なポイントです。
【アーカイブ|ファイナンス】
- 1 企業経営、組織運営にファイナンスを取り入れる
- 2 資産運用にファイナンスを活用!数字の根拠と正確性を明確に
- 3 キャッシュフローの根拠を明確に、割引率に納得性を備えられるように
- 5 WACCを用いて資金調達の最適化、将来に資する判断を