無理のない資金調達で、無駄のない運用を!固定比率、固定長期適合率から、財務の安定性、資産の健全性を検証する
【財務分析|第2回】
貸借対照表の分析は、資金調達と資金運用の両面から
貸借対照表は、ある一時点における資金調達、資金運用の状況が一覧となって数字で表されています。右側にはどこからいくら調達したのか、左側には何にいくら使ったのかが一覧になっており、左右それぞれの合計金額は必ず同額です。
左右の金額がバランスしている財務資料、ということで、バランスシートと呼ばれています。貸借対照表のことを「BS」と呼びますが、これはバランスシートの英語表記「Balance Sheet」の頭文字を取って付けられた名称です。
■ 貸借対照表の骨格
- 右側 どこから、いくら調達したか?
- 左側 何に、いくら運用したか?
また、貸借対照表を紐解くと、5つの区分で構成されていることが分かります。
■ 貸借対照表の5つの区分
- 流動資産 1年以内に現金化できる資産が入る区分
- 固定資産 1年以内に現金化できない資産、ならびに1年以上保有する資産が入る区分
- 流動負債 1年以内に返済しなければならない負債が入る区分
- 固定負債 1年以上かけて返済していく負債が入る区分
- 純資産 株主からの出資、毎年の利益などが入る区分
貸借対照表の分析は、主に5つの区分の大小を比較して行います。
自社の数値をライバル企業、業界平均、過去の業績と比較して、財務の安全性、資産の健全性を検証しましょう。
固定比率を通じて、固定資産に対する資金調達手段の安全性、健全性を検証する
固定比率とは、固定資産と純資産の2つの区分を比較した指標です。固定資産に運用した資金の出所と手段について、安全性、健全性を検証する際に使用する、貸借対照表分析の代表的な指標とされています。
■ 固定比率 計算式
固定比率=(固定資産/純資産)*100
■ 固定比率の目安
100%以下に
仮に固定資産に運用した資金の出所が流動負債であった場合、その後の資金繰りはどうなるでしょうか?
流動負債による資金調達、固定資産への運用はできなくはないのですが、資金調達後、1年以内に返済期限が到来してしまいます。固定資産が現金を創出するまでに時間がかかる場合、キャッシュアウトが先行し、資金繰りが大幅に悪化してしまうでしょう。
このような資金繰りの悪化を防ぐべく、固定資産への投資、運用を行う際は、返済する義務の無い資金調達(純資産の区分からの資金調達)が望ましいとされています。資金調達後、資金運用後のキャッシュフローはどうなるか、固定比率を通じて検証してみましょう。
固定比率は低い方が評価され、固定比率が高い場合には何がしかのテコ入れが必要です。
■ 固定比率の改善アプローチ
- 固定資産を減少させる
- 純資産を増加させる
固定資産の減少は、売却、除去、継続使用のいずれかの手段で実現することができます。減価償却費を計上している場合は、毎年一定額の固定資産が減少するため、継続使用することで固定比率は改善されます。
純資産の増加は、増資、配当金の減少により実現することができます。配当金の減少については、利益(キャッシュ)を外に出さずに(株主への還元を減らして)社内に残すことで、意図的に純資産を増加させることができます。
業種、業界により固定比率の平均は異なるため、自社が属する業界の数値は必ず確認するようにしましょう。
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実際の資金調達は、純資産と固定負債の合わせ技で
企業経営は、順風満帆であり続けることはありません。良い時もあれば悪い時もあり、財務状況が一時的に悪化することは、どの会社も経験したことはあるのではないでしょうか。
固定比率は100%以下であることが望ましいとされていますが、100%以上が大多数、というのが実態です。実際には純資産と固定負債の合わせ技で資金調達するのが一般的であるため、このような現状を分析、検証するための指標として固定長期適合率があります。
■ 固定長期適合率 計算式
固定長期適合率=固定資産/(固定負債+純資産)*100
固定長期適合率も、100%以下が望ましいとされています。しかし、固定比率の計算式と比較して分母には固定負債が加算されており、より低い比率となるマネジメントが求められます。分析対象先が置かれている環境、状況に基づいて、固定比率、固定長期適合率を使い分けてください。
固定比率、固定長期適合率は、貸借対照表を分析する指標ではあるものの、企業全体の資金繰りも把握することができます。
資産と負債、両方にアンテナを立てて、キャッシュフローにも目配りができる人材に!
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